アイゼンブッフ禅センター

若山悠光さん

2006年4月から10月の間10周年記念行事の企画・実行・日本との調整のお手伝いに、愛知専門尼僧堂堂長の青山俊董老師の許可を得て若山悠光さんに来て頂きました。
通常の普門寺の活動で手いっぱいの中川老師を助け、その細かい心配りと熱心な仕事ぶりで行事を切り盛りして下さいました。
その若山さんに普門寺での生活を語っていただきました。

 

 

 

 

 

 普門寺での修行体験

正方寺徒弟若山悠光さん

 

 チリチリチリ...。振鈴の音に飛び起き、着替えと洗面を済ませて禅堂へ急ぐ。
伝統的な日本の僧堂に限りなく近く造られた新築の禅堂の青畳の香りの中で、単に坐り暁天の坐禅が始まる。
太鼓、鐘の音を聞きながら、自分がまだ日本に居るのではないかという錯覚さえ起こった。
しかしここはドイツ。
ミュンヘンに近い田舎町アイゼンブッフの普門寺である。
そういえば昨日、約12時間の空の旅をして来たことを思い出した。
平成18年4月11日のことである。

 普門寺は今年創立10周年を迎え、色々な記念行事が予定されていた。
中でも特に大きいのは、5月の記念式典と9月の晋山式であった。
日本からも多くの方々がお祝いに駆けつけて下さり、どちらも盛大な式となった。
そのお手伝いをさせていただきながら、華やかな式の裏には「このドイツの地に仏法を根付かせたい」という中川老師の固い誓願と、師を支えるお弟子さんやスタッフの方々の日常の地道な修行があることを強く感じた。

ここでは普門寺の日常生活について紹介させていただきたいと思う。                                
 

日本からわざわざ来て式の準備を取り仕切ってくださった若山師(左) 右はスタッフとしてご奉仕いただいた笠谷文代さん。

日本からわざわざ来て式の準備を取り仕切ってくださった若山師(左)
右はスタッフとしてご奉仕いただいた笠谷文代さん。

朝は5時振鈴(制中は4時、接心は3時)、暁天坐禅2夫、朝課、作務または体操(健康維持のため気功や散歩、トランポリンなどもある)。注)1

朝食は毎日玄米粥であり、コースに支障のない時は応量器を使う。

(普門寺に常住しているのは6人程度だが、禅堂にセミナーハウスが併設されており、常時さまざまなコースが行われていて、人の出入りは頻繁である)

 昼間は台所、庭、事務など各自担当の仕事を行う。
私は坐禅堂と野菜畑を担当させていただき、小さな畑ではあったがレタス、じゃがいも、ブロッコリー、パセリなどを作った。
ある時隣家の羊たちが柵を越えて乱入し、畑の野菜や花を食べてしまい慌てて後を追い回したことなど、よい思い出である。
台所の手伝いもさせていただいたが、日本とはだいぶ違う食事で、食材や調味料など見たことのないものが多くあり興味深かった。

野菜が中心であるが、無農薬の野菜を使い、豆類などからたんぱく質を取るよう健康のバランスがよく考慮されている。

豆腐としょうゆはこちらでも「TOFU」[SHOYU]と呼ばれて人気があった。

 

台所

台所

 午後には曜日によって読書や勉強の時間があり、夕食後は、夜坐または勉強の時間で中川老師の参同契の講義や「ダルマルンデ」という布薩の原型に近い反省会のようなものもあった。

また絡子の把針やお経の練習、時には御詠歌まであり盛り沢山であった。
週間、月間のスケジュール表、仕事の役割分担表、掃除の分担表、食事の大まかなメニュー表まで作られ、バランスよく考えられていて、実際はなかなか予定通りにはいかないものの、組織化しようとの努力が伺われた。
毎水曜日には夜の坐禅会があり、地元の人々が集まる。

また摂心や禅コース、仏教学や正法眼蔵のコースなど一般の人を対象とした修行や学習も常に行われている。

また何をするにも日本語、ドイツ語、英語が飛び交い、非常に国際的であり、言葉のわからない時にはすかさず誰かが通訳してくれ大変ありがたかった。

 

 

 

 比較的規律化され、父性的厳格性を持った禅堂の修行生活に対して、「健やかな生活」を指針としたセミナーハウスの活動では、音楽や華道、さまざまなメディテーションなどのコースもあり一般の人々を広く受け入れている。

坐禅はしないが、近隣から庭仕事や掃除や台所や事務などのためだけに来る人々もあり、各人がその能力を発揮して生き生きと奉仕している。

アイゼンブッフはカトリック、特にマリア信仰の強い地域であり、マリアの持つ母性的受容性をセミナーハウスの活動が上手くカバーしていると感じた。

特に「仁神術」という日本の伊勢神宮に伝わる古い治療法(健康法)があり、身体のツボに手を当てて気を送ることで全身の気の流れを促進し、健康のバランスを内側から保つという。

忙しい修行生活の合間に皆が一所に集まり、沈黙の中で「仁神術」を行うのは、日本の僧堂ではできないめずらしい体験であった。

 半年ほどの滞在であったが、ドイツの地で真剣に法を求め坐禅修行を志す多くの方々と出会え、共に修行ができたことは大変貴重な経験であった。

何よりも言葉も充分通じない者を快く受け入れ、常に助けてくださった中川老師と普門寺の皆様に心から感謝を申し上げたい。

 

 

注)1 その時の行事やコースの内容により起床時間が変わることがありますが、特別なことがない場合は4時起床です。